oldmanvitoriablog’s diary

Money and Energy

年金のリアル その4 付録:マクロ経済スライドって何?

年度始めになると、新聞や報道で「マクロ経済スライドが適用されて本年度の年金支給額は云々」というような記事が出ることがあることに気が付いたので、「何これ?」と思って、調べた結果を記録しておこうと思い、この記事を書きました。簡単に言うと:

マクロ経済スライドとは、「国民に支給する年金を減額するための調整係数」のこと。

厚労省日本年金機構の説明では「平成16年の年金制度改正で導入されたもので、賃金や物価の改定率を調整して穏やかに年金の給付水準を調整する仕組みです」ということで、「減額する」との文言を避けて、意図的に分かりにくい説明にしていますが、中身は「年金を減額するための係数」です。

先に、その1で書きましたが、年金財政は、その収入が「保険料+国庫負担+積立金からの補填」で賄われています。保険料収入は、国民年金保険料(月約16,500円、20-60歳480ヶ月基本)と厚生年金保険料(収入の18.3%固定労使折半、年齢の下限は無く、働く会社員、公務員上限70歳)です。少子高齢化が進むと、労働力人口(保険料を納める人)が少なくなるとともに、平均余命の延びにより、年金の給付期間が長くなる。この結果、年金財政の収入は減り、支出は増加する傾向が継続することになり、年金財政はだんだんひっ迫してきます。そうすると、国庫負担は税金ですから、あまり増加させられない(増税につながるので、国民がさらに苦しむ)し、積立金の収益からの補填を増やすしかないが、これも限度が出てくるので、ある程度のところで、収支を均衡させないと、長く年金制度を維持することができない。しからば、収支が均衡するまで支出の年金給付を徐々に減額して全体支出を少なくしていく方法をとるしかない。こうして編み出されたのが、「マクロ経済スライド」という「減額調整係数」というわけです。減額方向だけなのに、スライドという言葉を使って意図的に「あいまいにしている」と推定されます。(なんで国民に分かりやすい制度にしないのかなあ?と思います)

わかりにくい制度にすると、何となく減額しているし、年金財政が厳しいようだとの印象をもって、国民は漠然とした不安を抱くと思われます。

ここで問題は、「いつ財政が均衡するのか」ということですが、この見通しは示されていません。ということは、これから毎年減額修正が繰り返されて、年金額は減らされていくと考えられます。年金財政が均衡するには、保険料を納付する労働力人口が、年金を受給する人口を超えなければなりませんが、少子高齢化の現状では、そのような状況になるとは思えません。少子化対策(育児対策ではなく、若い人の給料を上げることで結婚、子供の数を増やす+外国人労働者を増やして年金保険料を納付する人数を増やす等)がこの点からも必要と考えられます。

<従来の年金額の計算式>

(基礎年金(国民年金部分、第1,2,3被保険者共通に受給する年金))

満額基礎年金額 x (保険料納付換算月数/480月) x 物価スライド率(購買力維持のため係数)

(厚生年金(第2被保険者の上積み年金部分))

平均標準報酬額 x 5.481/1000 x 比保険者期間の月数 x 物価スライド率(購買力維持のための係数)

<平成16年マクロ経済スライド導入後・・・その後、繰り越し(キャリーオーバー)もついかされた>

(基礎年金)

満額基礎年金 x 改定率 x (保険料納付換算月数/480月)

(満額は780,900円・・・H16年度額固定)

(厚生年金)

平均標準報酬額 x 再評価率 x 5.481/1000 x 被保険者期間の月数

注)

1.「再評価率」とは、過去の各年度の各自の標準報酬額に過去の給与の価値を現在価値に直すための、係数(コーヒー一杯100円の時代と400円の現在では給与の価値が違うので、過去の各年度を現在価値に直すため・・・日本年金機構HPには毎年の換算係数の表が示されています。)

2.改定率と再評価率

(初めて年金をもらう人・・・65-67歳の人)

改定率(再評価率) = 前年度の改定率(再評価率) x 賃金変動率(3年平均)x 調整率

(すでに年金をもらっている人・・・68歳以上の人)

改定率(再評価率) = 前年度の改定率(再評価率) x 物価変動率x 調整率

ここで、調整率というのが、マクロ経済スライドによる係数で

調整率=公的年金被保険者数の減少率(3年平均)x  平均寿命の延びを勘案した一定率(0.997・・・マイナス0.3%の意味)・・・年金被保険者数の減少率は労働人口が減少する現状から、マイナスのはずであり、調整率は0.998 x 0.997 =0.995のように年金を減らす方向に作用する係数です。直近の「調整率」は:

令和元年度   マイナス0.2%・・・繰り越し含めるとマイナス0.5%

令和2年度  マイナス0.1%

令和3年度  マイナス0.1%・・・次年度に繰り越し

令和4年度  マイナス0.2%・・・繰り越し含めるとマイナス0.3%だが繰り越し

令和5年度  マイナス0.3%・・・繰り越し含めるとマイナス0.6%

のようにマクロ経済スライドは、毎年マイナスで年金額を減少させる係数です。

この調整率の適用については、上に「繰り越し」と書いたように、使う時と使わない年があり、使わなかった年は次の年に繰り越して使うことになっています。

賃金や物価が上昇した時は、調整率を使って、賃金や物価が上がった割合から調整率分を引いた率で年金額を計算します。賃金や物価の伸びが小さく、調整率分を引いて年金額を計算すると前年度より少ない年金額となるときは、マイナスになる分の調整率を使わず、次年度に繰り越します。賃金や物価が伸びがマイナスの場合は、年金額はそのマイナス分で計算し、調整率は使用せず、次年度に繰り越します。このようにして繰り越された調整率は、次年度の賃金や物価がプラスの場合、次年度用の調整率に加えて適用します。

このように、年金額の計算は非常に複雑(制度自体も複雑)で誰も自分の年金を計算する気にもならないと思います。

年金については、一国民としては、おそらく年金制度は無くならないが、年金額は少しづつ減っていくと考え、年金定期便を参照して、自分の生活費を確認し、年金受給開始までに老後資金を出来るだけ用意するよう努力する、ということに尽きるように思われます。